大人しい人の苛立ち

北の港町の酒場『ですぺら』の
薄ぼんやりとした昏がりに
そっと置かれた呟き
『多様性とエゴ?』

40年はここに立つマスターが
瞬時に返答する
『内包されている。』と

人の刳みは刻々とかたちをかえる
荒い解像度の他者理解が
上から下にばら撒かれ
優しい人から変わっていった
おとなしい人さえ

人気のある刑事ドラマの
複雑な筋書きにさえ
それが反映されていた

おとなしい人たちの苛立ちが
炙り出されて姿を見せはじめた
生ぬるい憎悪が

ポチリとすれば
すぐ届く格安な品々は
どこかの誰かが
安く作らされたもので
かなり過酷な状況を経て
運ばれてくる

効果抜群の並行輸入の
毛生え薬は
内臓を抉っている

まだ今のところは明日は来るだろうが
もはや垂直と
水平の概念も
問い直し続けなければ
日々は崩れ落ちそうだ

もう一度昏がりに置かれた言葉に
耳を澄ます

『多様性とエゴ?』
『内包されている。』

これから先はあの古き良き時代に
想いを馳せたアジアの街角
気の合う友達は増えるかもしれないが
厳しい暮らしは覚悟しなければならない

ただ今が近い過去と違うのは
より一人一人の小さな選択が
作用を持つであろうこと

2016.2.11